勝手にしやがれアクセス解析によって、ヌーベルバーグについてより詳しい情報を求めている人が幾人かいることを知り、僕の知っている範囲でより詳しい情報を解説したいと思いました。
前にも書きましたが本家ヌーベルバーグは、60年代のフランスで起こりました。それまでカイエ・ド・シネマ誌等でその当時の映画を痛烈に批評していた(反面、ルノワールなどのその当時より古い映画は誉めていたと思います)連中が、大挙して、それまでの撮影所仕込の映画の題材、撮影法にとらわれない新しい形で映画を撮り出した運動を総評してヌーベルバーグ(フランス語で“新しい波”という意味です)といいます。
トップバッターは、ジャン・リュック・ゴダールのジャン・ピエール・ベルモンド主演の「勝手にしやがれ」です。ベルモンドに対する日本人の認知度は低いですがフランスではアラン・ドロンと並んでフランスの国民的俳優です。少し前にベルモンドは日本に来日していましたが「勝手にしやがれ」の時の渋さやカッコよさが微塵もなくなり、人の良いおじいさんみたいになっていました。「勝手にしやがれ」の世間に与えた影響は大きく、セックスピストルズのファーストアルバムの名前や日本では沢田研二が同名のシングルを出していたのを記憶している方もいらっしゃるでしょう。近くでは、とんねるずの石橋貴明が車の運転席から「海が嫌いで、山が嫌いで、街が嫌いなら、勝手にしやがれ」と観客に話しかけるシーンをそのまま再現していました。それほど、この映画の中のジャン・ピエール・ベルモンドはカッコよかったのです。また、今でこそテレビや映画のスクリーンから俳優が、そこに存在していない観客に向かって語りかけるのは珍しくないですが、当時、映画の銀幕の向こうから俳優が語りかけるというのは考えられない出来事でかなりショックを与えたことでしょう。
ヌーベルバークの人々は連帯意識が強くこの「勝手にしやがれ」の脚本も当時、もう一人のヌーベルバーグの旗手フランソワ・トリュフォーとの共同脚本という形をとっていましたが、実情は原案かそれも怪しいところです。
ジャン・リュック・ゴダールは、続いて同じジャン・ピエール・ベルモンド主演で「気狂いピエロ」を撮影しました。今ではこの題名は放送禁止用語となっています。
気狂いピエロこの映画は、ハリウッドのギャング映画のパロディとして創られました(フランス人はこういうことが得意なのか90年代に「ポンヌフの恋人」や「汚れた血」のレオス・カラックス<「ポンヌフの恋人」で当時の女性にヒットしたようですが「汚れた血」の方が格段に面白いです>、この人も当時ヌーベルヌーベルバーグの1人と言われました。このレオス・カラックスもハリウッド映画の男と女が出会って(ボーイ・ミーツ・ガール)ハーピーエンドを迎える恋愛映画を批判的に観た「ボーイ・ミーツ・ガール」という題名の映画をデビュー作で作っています)。
話を「気狂いピエロ」にもどすと、この映画の批評で僕の頭に印象深く残っている批評は「これは実存主義(フランスの60年代の文芸界のスター、サルトルがマルクスの資本論から導き出した近代人の疎外された状況を表すコトバ)の映画だ。死体が人格を剥奪され物として扱われている」というものでした。確かに他の映画と違いそのように見えました。
この映画は主にモノローグで語られ、色調も原色をメインに使われています。そしてこの映画でジャン・リュック・ゴダールは、映画マニアや映画監督を目指す人達の神様のようなカリスマアイドルになりました。
ここからネタバレあり。
この映画のラストは、主人公であるジャン・ピエール・ベルモンドがダイナマイトを頭の周りにグルグル巻きにし、自爆するのです。多分「気狂いピエロ」の題名のゆえんだと思います。しかしこのことからジャン・ピエール・ベルモンドは、ジャン・リュック・ゴダールと決別し二度と彼の監督作品には出演しませんでした。
ジャン・リュック・ゴダールは、現在も存命で精力的に映画を発表していますが、一時80年代に「カルメンという名の女」など作品で話題を提供した以外、一部のマニアだけに受け入られているようですが、映画の表舞台からは遠ざかりました。
また、この「気狂いピエロ」に出演していた割と美人のアンナ・カリーナにゴダールが恋心を抱き、花束をあしげにアンナ・カリーナに届け、付き合ってくれとせがみ続けていたのですが、ゴダールは写真を見れば分かるようにぶ男であり、アンナ・カリーナは最初、全く相手にしなかったのですが、とうとう根負けし結婚したというフランス人らしい微笑ましいエピソードは映画ファンにとっては有名な話です。その後離婚しましたが、ゴダールの作品には出演し続けています。
非常に長文になったので、ヌーベルバーグのもう一人の旗手フランソワ・トリュフォーについては、また別の機会につづりたいと思います。
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